大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成元年(行ケ)142号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 本願発明について

1 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(一) 技術的課題(目的)

(1) 本発明は静電荷像の現像方法に関し、とくにキヤリヤを混合しないトナーのみを現像剤として使用する静電荷像の現像方法に関する。(甲第二号証訂正明細書第二頁三行ないし五行)

(2) 本発明の目的は現像操作が湿度の影響を受けず、良好な連続調の画像を得ることができ、使用する装置の構造が極めて簡単なものですみ、現像効率がよく、しかも現像によつて得られる未定着のトナー像は静電的な転写方式を適用しても良好に転写することができる静電荷像の現像方法を提供するにある。(同第五頁三行ないし九行)

(3) 本発明者は前記の目的が、樹脂、定着剤および微粒子状強磁性体を主成分とする絶縁性トナーをキヤリヤを混合せずに使用し、かつトナーとの間に適度の摩擦帯電を行うような性質の表面を有するトナー支持部材とN、S交互に配置されてトナー支持部材上で反転する磁界を形成する磁極群とを相対運動せしめてトナーを支持部材上で転動させ、トナーに電荷を与えることによつて達成し得るものであることを見出した。(同第五頁一〇行ないし一八行)

(二) 構成

(1) 本願明細書の特許請求の範囲(本願発明の要旨)に記載の構成の採用

(2) トナーをキヤリヤを混合せずに使用して静電荷像を現像して最も好結果の得られる方式は、とくに円筒型磁石の周表面に導電性の非磁性体で形成された円筒からなる所謂スリーブを設けたものが有効であり、さらに円筒型磁石はその円周方向に順次極性を異にして配列せしめた複数の磁石の集合体からなるものがとくに有効である。特に、現像剤供給装置から、現像位置に至る迄の間にスリーブのトナー支持面の法線方向の向きが反転する磁界を形成するよう磁石を配列するのが有効である。なお磁石とスリーブは互に相対的に移動するように構成するのが望ましく、具体的には例えばスリーブを固定して内部の磁石を回転せしめるかあるいは磁石を固定してスリーブを回転せしめるかのいずれかの手段をとればよい。(同第一四頁一八行ないし第一五頁一二行)

(3) 順次極性を異にする配列とはN極、S極の完全な交互配列にとどまらず、必要に応じて同極性のものを複数個連続的に配置したものでもよい。但し、トナー供給位置から現像位置に至る間にN、S交互の磁極配列を少なくとも一ケ所設ける必要がある。(同第一五頁末行ないし第一六頁五行)

(4) 前記のごときスリーブと磁石を用いることにより、本発明において使用するトナーはトナー粒子内部に強磁性体を含有しているので磁石によつてトナー粒子がスリーブ表面上に磁気的に吸引されスリーブに対する磁石の相対的な移動に応じてスリーブ上に吸引されたトナー粒子が自転しながらスリーブ表面上を移動し、スリーブ表面とトナー粒子との間に生ずる摩擦によつてトナー粒子に適当な電荷が帯電される。スリーブ表面上のトナーはキヤリヤが存在しないため比較的薄層を形成してスリーブ表面を被覆する。その際スリーブ表面上のトナー層の厚みをコントロールし均一な現像が行われるようにするためトナー層の表面に凹凸しているトナーの穂先を例えば規制板を用いて適当にカツトするのが望ましい。(同第一六頁八行ないし第一七頁二行)

(5) 実施例1

市販の繰り返し使用する転写用酸化亜鉛感光紙………を用い、通常の電子写真法にしたがつてその表面に静電荷像を形成した後、前記トナーを用い、現像装置として第1図(本判決別紙本願発明図面第1図)に示す如き、交互に異なる磁極を配置せしめた固定された円筒型磁石とその外周で回転すべく構成したスリーブとからなる装置を用いて現像し、然る後常法にしたがつて普通紙に転写したところ良好な画像が得られた。第1図において1はトナー容器、2はトナー、3は静電荷像面に対するトナー供給装置全体をさす。4は黄銅製のスリーブ、5は永久磁石、6は規制板、7は矢印の如く移動する感光紙、8は感光紙を保持する導電性基材、lはトナー層を示す。(同第二〇頁一三行ないし第二一頁七行)

(三) 作用効果

本発明に係るトナーと現像装置とを使用することにより、キヤリヤを混合しないでも静電荷像を良好に現像することができ、しかも現像によつて得られる未定着のトナー像は転写方式によつても良好に他の基材上に転写することができる。さらに本発明に係る現像装置としては、本体の構造が簡単である上にキヤリヤを用いなくてすむので、現像装置内の現像剤を攪拌するための例えば掻き落とし板、攪拌具などの攪拌装置を設ける必要がなく、またキヤリヤを用いないことにより現像装置内のトナーの濃度が常に一定に保たれるので、トナーの補給量を厳密に調整するためのトナー濃度検知装置などを設ける必要がなく、さらに従来の現像装置に比べて構造が簡素化されるとともに、この現像装置を組み込んだ例えば複写装置を全体として極めて小型化することができ、かつその製造コストも低減することができるという優れた利点を有する。(同第五頁一九行ないし第六頁一六行)

2 右事実によれば、本願発明は、一成分現像剤としてのトナー粒子内に微小の磁性体を含有させた絶縁性磁性トナーを用い、規制部材により、エンドレスの現像剤支持部材上における現像剤の層厚を規制しつつ、現像剤支持部材の内側に設けられた現像剤供給位置から現像位置に至る間に右支持部材の支持面の法線方向に関し向きが反転する磁界を形成する磁石と右支持部材とを相対運動させることにより現像剤を現像位置に搬送するとともに支持部材との間で現像可能に摩擦帯電させて現像を行うものであると認められる。

この点に関し、被告は、本願発明の帯電方法では磁性トナー粒子の全体が均一に摩擦帯電しているものと解することはできない旨主張する。

被告の右主張は、本願発明の帯電方法では磁性トナー粒子の全体が均一に摩擦帯電していないから、発明としては未完成である旨の主張か、あるいは第一引用例と対比して本願発明の帯電方法では不十分である旨の主張であると解される。

しかしながら、本件審決は、本願発明と第一引用例とを比較して、本願発明はトナーを「現像剤支持部材との間で摩擦帯電させているのに対し、第一引用例のものはコロナ放電であり」(本件審決の理由の要点3)と認定しているのであるから、被告の右主張が発明の未完成をいうのであれば、それは本件審決の認定しないことを主張するものであつて理由がない。また、第一引用例と対比して本願発明の帯電方法では不十分である旨の主張であるとしても、本件審決はこの点を相違点として掲げていないから、いずれにしても本件審決の認定しないことを主張するものであつて、失当である。

三 推考容易性について

1 原告は、「本件審決は、磁石と現像剤支持部材との相対運動による第三引用例の二成分現像剤の搬送を一成分現像剤にも適用できることは明らかであると認定しているが、従来の技術常識からすれば、第三引用例の方法を一成分現像剤のトナーの搬送手段として用いるという考えには到達するとしても、帯電していないトナーを搬送中の支持部材との摩擦によつて転動させて帯電させるという技術思想を当然想到できるはずがない。」旨主張する。

(一) 第三引用例に、「現像剤支持部材内に設けられ、現像剤供給位置から現像位置に至る間に前記現像剤支持部材の現像剤支持面の法線方向に関して向きが反転する磁界を形成する磁石と前記現像剤支持部材との相対運動によつて、現像剤を現像位置に搬送させること及びトナー粒子が自転及び公転し現像剤支持部材との間で摩擦することが記載されている」ことについては、当事者間に争いがない。

(二) 成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例は、その特許請求の範囲を「極性を順次反対にして並べた永久磁石と、非磁性板と、トナーと、静電写真印画紙とをこの順で配置し、前記磁石と非磁性板と静電写真印画紙とを相対的に移動させることによつて、トナー粒子を自転させながら、非磁性板に対する永久磁石の移動方向と反対の向きに移動させ、且前記磁石の磁極の部分においてトナー粒子群を毛羽立たせ、これを静電写真印画紙に対して軽く摺擦させて潜像を顕出させることを特徴とする静電写真現像方法。」とするものであり、明細書の発明の詳細な説明の欄には次のとおり記載されていることが認められる。

(1) 第1図(本判決別紙第三引用例図面第1図)において符号1は周面の円周方向に反対の極性が順次示されるように着磁された磁石棒、………2は前記磁石の周面との間に適当な間隔を存して共軸的に支持された包囲筒であつて………これら磁石棒と包囲筒は共通中心軸線の周りに相対的に回転することができる。………前記筒2はその下方の周面が容器3の中に収容されるトナー4の中に沈むように設けられており、筒2の上位には同筒の周面と適当な間隔を存して静電的に帯電した潜像を有する印画紙5が任意の一方向に移動されるようになつている。(甲第五号証第一頁左欄二八行ないし四二行)

(2) 今前記磁石棒1と包囲筒2とを共通中心軸線の周りに相対的に回転させたとする。すると容器3内のトナー粒子は筒2の周りに磁力によつて吸引せられ、且トナーの各粒子は筒2の外面において自ら回転しながら筒2の側から見た磁石の回転の向きと反対の向きに移動する。………このときのトナー粒子の運動は実験によつても確認し得るも、その理由は明らかでない。併し想像するにトナーの粒子は多く針状をなしており、同粒子が磁石棒1の極に最も近くに位置するときは、第3図(本判決別紙第三引用例図面第3図)aに示されるように前記粒子も励磁されて顕微鏡的に粗荒な筒2の周面上に立つているものと考えられる。次いで磁石棒1が示矢方向に移動するときはトナー粒子の立脚部は去り行く磁極に引かれて原位置(鎖線で示す)より多少移動するも、接近して来る異性の極の影響を受けて第3図bに示すように針状粒子は傾くものと考えられる。次いで磁石棒1がなおも移動するに従い前記針状粒子は第3図cに示されるように一旦筒2の周面上に倒伏するが、磁石棒1の前記異性の磁極がなおも接近するに従い第3図dに示すように針状粒子は自転して傾斜状態に起ち上り、遂に前記異性磁極が針状粒子の直下に達するに至つて同粒子は完全に自転の一回転を了して再び立上がるものと考えられる。なおこのようにして針状粒子が自転するときその立脚点と筒2の外周面との間には摩擦抵抗が存するため、針状粒子の立脚点が去り行く磁極に引かれて第2図の左方に移動する速度よりも、粒子自体の転動によつて同粒子の中心が右方に移動する速度の方が大きいため、結果として針状粒子は既述の如く各箇に自転しながら筒2の側から見て磁石棒1の回転する向きと反対の向きに公転的移動をなすものと考えられる。(同第一頁左欄末行ないし右欄三一行)

(3) この場合包囲筒2の周面のトナー粒子群は、内側に磁石の極の存する部位において最も多く集結し、従つてその部位のトナー粒子群は第1図に示されるように他の部位に於けるトナー粒子群よりも高く毛羽立つて隆起する。この隆起部が次々に印画紙5の面を一様に軽く摺擦して潜像を顕出する。(同第一頁左欄三二行ないし三七行)

(三) 右事実によれば、第三引用例には、想像図ではあるが第3図において、励磁されたトナー粒子が筒の外周面との間に生じる摩擦抵抗を受けながら磁石棒の磁力によつて筒上を自転、公転することが記載されているものと認められる。

ところで、本件審決は、第三引用例のものは二成分現像剤の搬送に関するものであると認定しているが、前掲甲第五号証によつても、第三引用例の明細書には、第三引用例のものが二成分現像剤に関するものであるとは明記されておらず、仮に第三引用例の出願が昭和三五年であり、当時の技術水準あるいは右明細書中のトナーの粒子、針状粒子等の記載から、これが二成分現像剤の搬送に関するものであると解するとしても、右記載からすれば、磁性をもつた現像剤の現像方法において、磁性トナーが自転、公転し現像剤支持部材と摩擦接触しながら現像剤供給位置から現像位置に搬送されることが、第三引用例に示唆されていることは明らかである。

(四) また、第一引用例に、「トナーとして絶縁性であり、個々のトナー粒子内に磁性を含有するトナーを主成分とし、キヤリヤを含まない現像剤を使用し、該現像剤を規制部材によりその現像剤層厚を規制してエンドレスに形成された現像剤支持部材で支持し現像剤供給位置から現像位置に搬送」することが記載されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例のものは、現像剤を現像剤支持部材の表面に、その内部に配置された磁石の磁力によつて吸引し、現像位置において現像剤の突出部を形成することが認められる。(別紙第一引用例図面参照)

そして、キヤリヤを含まない一成分現像剤を用いる第一引用例の発明と、トナーと磁性キヤリヤからなる二成分現像剤を用いると解される第三引用例の発明とを対比すると、両者は、磁性現像剤を用いる乾式現像方法であつて、現像剤を現像剤支持部材の表面に、その内部に配置された磁石の磁力によつて吸引し、かつ規制部材により均一な厚さの現像剤層を形成するとともに、現像剤をその収容容器から現像位置まで搬送し、現像位置において現像剤の突出部を形成する点で共通するものであると認められ、トナーに関する限り両者の相違は、単にトナーに磁性キヤリヤが含まれているか否かにすぎないものと認められる。

してみれば、磁性をもつた現像剤の現像方法において、磁性トナーが自転、公転し現像剤支持部材と摩擦接触しながら現像剤供給位置から現像位置に搬送されることが、第三引用例に示唆されているから、第三引用例の現像剤の搬送手段を一成分磁性現像剤の搬送に適用することは、当業者にとつて容易であるといえる。

(六) したがつて、本件審決が、「第三引用例のものは二成分現像剤の搬送であり、一成分現像剤の搬送ではないが、磁性を有する一成分現像剤の搬送にも適用できることは明らかであり、」と認定判断したことに原告主張の誤りはない。

2 原告は、「本件審決は、第二引用例を引用して、本願発明において、磁力の作用による搬送の途中でトナーが支持部材と摩擦して電荷を付与されることは当業者の予測の範囲内であると認定しているが、……第三引用例の現像剤搬送方法を一成分現像剤の絶縁性トナーに応用すると帯電していないトナー粒子が搬送中に支持部材との摩擦により現像可能に帯電するなどと当然に予測できるものではない」旨主張する。

(一) 第二引用例に、「磁性トナーと現像剤搬送部材との摩擦帯電により磁性トナーに電荷を付与することが記載されている」ことについても当事者間に争いがない。

(二) 成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、次のことが記載されているものと認められる。

(1) 粉体画像を作る機械において、少なくとも暗所で静電的に絶縁性外側の層と内側の導電性層とから成る無端の搬送手段と、該搬送手段が移動するときその外側の層の上に静電画像を形成するための手段と、磁気的吸引力があり微細化された粉体粒子を静電的に帯電する手段と、該静電画像を有する外側の層を該粉体粒子と接触させ、それによつて該静電画像に対応する粉体粒子からなる画像体を形成するための手段と、少なくとも一つの画像受容部材を該外側層上の画像体及び該受容体の近傍の磁石と転写関係に導入し、かかる関係に於て該画像体を該画像受容部材へ転写させる手段、及び該粉体粒子を画像配列状態にある該画像受容部材へ該画像受容部材へ悪影響なしに溶融させる手段で、誘導加熱手段を持ちそれにより該画像受容部材は、高周波電磁流を持つ電磁石の磁束線を貫いて通過するような手段、との組合せから構成されていることを特徴とする粉体画像を作る機械(特許請求の範囲第一〇項)。

(2) 本発明に基づくもう一つのキヤリヤ装置が図16(本判決別紙第二引用例図面)に示されている。ここではフレキシブルシート10は、………回転可能な状態で、二個のドラムに取り付けられており、ドラム11はその軸のまわりを自由に回転出来る。補給用の検電性磁性トナー粉末12は、容器13の中に収められており、シート10がその中に浸たり容器13の中の補給用トナー12に十分に接触するようになつている。………動作の際は、ここには図示されていないモーター手段が作動されて、ドラム11を回転させることによつて、補給用トナー12と摩擦接触させながらシート10を駆動する。この接触のため、トナー粒子とシート10の表面の両方共その間の摩擦電気的接触により帯電する。(甲第四号証訳文第一二頁一行ないし一四行)

(3) 本発明の新規な検電性磁性トナーはキヤリヤとともに、あるいはキヤリヤなしで使うこともできる。(同第二一頁一三行ないし一四行)

(三) 右事実によれば、第二引用例には、キヤリヤを用いない一成分現像剤において、現像剤支持部材であるシートが容器に収められたトナーに十分接触しながら駆動されると、トナー粒子はシートの表面との間の摩擦接触により現像可能な程度に帯電されるとともに、シートによつて現像位置まで搬送されることが記載されているものと認められ、しかも、前記のとおり、磁性トナーが自転、公転し現像剤支持部材と摩擦接触しながら現像剤供給位置から現像位置に搬送されることが、第三引用例に示唆されているから、第三引用例の現像剤の搬送手段を一成分磁性現像剤の搬送に適用すると、帯電していないトナーが現像剤供給位置から現像位置に至る間に支持部材との摩擦により現像可能に帯電することは、当業者にとつて容易に予測し得ることと認められる。

3 してみると、本件審決が、第二引用例の記載から、「現像剤支持部材内に設けられ、現像剤供給位置から現像位置に至る間に前記現像剤支持部材の現像剤支持面の法線方向に関して向きが反転する磁界を形成する磁石と前記現像剤支持部材との相対運動によつて現像剤を現像位置に搬送させるとともにトナーの搬送部材である現像剤支持部材との間で摩擦帯電させることに格別の困難性はなく」と認定判断したことに原告主張の誤りはない。

四 効果について

1 原告は、「本願発明の効果は、二成分現像方法の固有の欠点、すなわち、現像剤中のトナー濃度の制御を欠かすことができず、また現像剤攪拌装置等を必要とするため現像装置が複雑化するなどの欠点をなくした点にある」旨主張するが、二成分現像剤を用いることに伴う固有の欠点を解消することは、第一引用例及び第二引用例の奏する効果と同じであるから、本願発明の固有の効果とはいえず、この点は原告も自認するところである。

2 また、原告は、本願発明は「第一引用例及び第二引用例の方法における欠点を解消し、右各引用例では得られない良好な画像が得られる点にある。すなわち、本願発明では一成分現像剤の磁性トナーを磁力によつてスリーブに付着させて、スリーブ上での絶縁性トナー粒子自体の転動によつてトナーを摩擦帯電させるので、個々の異なつたトナー粒子がその搬送過程で次々とスリーブに接触して帯電され、スリーブ上にトナー層が均一に形成されるとともに、トナー層の帯電状態も均一である。」旨主張する。

しかしながら、磁性トナーに摩擦帯電が生じること及びスリーブ上にトナー粒子が均一に形成されることは、磁性トナーの搬送手段として第三引用例を採用することによつて当然予測される効果であるといえるから、原告の右主張は理由がない。

なお、原告は、「スリーブ上での絶縁性トナー粒子自体の転動によつてトナーを摩擦帯電させる」旨主張するが、「一成分磁性現像剤を支持部材上で転動させ、搬送途上で支持部材との摩擦により現像可能に帯電させる」ことは、本願発明の要旨にはなつていない。すなわち、前記のとおり、現像剤の帯電方法については、本願発明の特許請求の範囲に、「現像剤支持部材内に設けられ、現像剤供給位置から現像位置に至る間に前記現像剤支持部材の現像剤支持面の法線方向に関して向きが反転する磁界を形成する磁石と前記現像剤支持部材との相対運動によつて、現像剤を現像位置に搬送するとともに、前記現像剤支持部材との間で摩擦帯電させて、現像を行う」と記載されており、現像剤を支持部材上で転動させ、搬送途上で支持部材との摩擦により現像可能に帯電させるものとの限定はなく、第二引用例に記載されているように、容器内に収められている現像剤粉末中に支持部材を浸して駆動することにより、現像剤を支持部材と摩擦接触させて帯電させる場合も含むものと解される。

したがつて、スリーブ上での絶縁性トナー粒子自体の転動によつてトナーを摩擦帯電させることによる効果を本願発明の固有の効果として主張する原告の右主張は理由がない。

3 してみると、本願発明の効果は第一引用例ないし第三引用例の奏する効果の総和以上のものとは認められないから、本件審決が、「それによつて奏される効用も各引用例が奏する効用の和にすぎず格別のものではない。」と判断したことに原告主張の誤りはない。

五 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

トナーを主成分とし、キヤリヤを含まない現像剤をエンドレスに形成された現像剤支持部材で支持し、現像剤供給位置から現像位置に搬送し、現像剤と前記現像剤支持部材との摩擦帯電により現像剤に電荷を付与し、静電像を現像する静電荷像の現像方法において、

トナーとして絶縁性であり、個々のトナー粒子内に磁性を含有するトナーを使用し、且つ規制部材により前記現像剤支持部材上の現像剤層厚を規制して、前記現像剤支持部材内に設けられ、現像剤供給位置から、現像位置に至る間に前記現像剤支持部材の現像剤支持面の法線方向に関して向きが反転する磁界を形成する磁石と前記現像剤支持部材との相対運動によつて、現像剤を現像位置に搬送するとともに、前記現像剤支持部材との間で摩擦帯電させて、現像を行うことを特徴とする静電像現像方法。(別紙本願発明図参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙 本願発明図面

<省略>

別紙 第一引用例図面

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別紙 第二引用例図面

<省略>

別紙 第三引用例図面

<省略>

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!